有名な芥川龍之介の作品「くもの糸」については、
 
説明する必要がないと思うが、
 
あの話に後日談があることは、
 
あまり知っている人がいないと思うので、紹介しておきたい。
 
 
 
 たった一度くもの小さな生命を助けたことがあった大泥棒のカンダタは、
 
せっかくお釈迦さまが、銀色の蜘蛛の糸を天井から降ろして下さったのに、
 
自分一人だけ助かろうとして、ふたたび地獄の血の池に落下して……
 
 
「後日談」はそれからの話である。
 
 
 それから、又、彼は何百年も血の池で蠢いていたのであるが、
 
ある朝、再度お釈迦さまが蓮池の近くにお立ちになり、何を思われたのか、
 
(神さまとは気まぐれなものである)
 
もう一度だけ蜘蛛の糸を血の池に向かってするすると投げ与えてくださった。
 
 
 
いち早くこれに気づいたカンダタは、夢中でこの糸にとりすがったのだが、……
 
ここで彼は、はたと考えたのである。
 
「まてよ、今このまま俺がこの糸を登り始めて見ろ、
 
又前のように亡者どもが後からついてくるに違いない。
 
それでは、糸が切れる恐れも前回と変わりがないぞ……」
 
 そこで思案したカンダタは、
 
まず自分の近くにいる亡者の一人を先に登らせる事にした。
 
そしてすぐ後から他の亡者どもが登り始めないよう、見張りをしながら、
 
一人目の亡者が遥かに高い天上の蓮池のふちにたどりついて、姿が消えるのを見届けると、
 
「よし、次の奴行けッ」
 
 と言って二番目の亡者に合図して、そいつを登らせた。
 
二番目が見えなくなると、「次は貴様だ」と言って、とにかく自分の近くに蠢いている奴らを、
 
いっときも早く上に送りこみ、自分が登るときにぞろぞろついて来ないよう、
 
廻りを片づけておこうと考えたのである。
 
しかし、これは良い思案のようではあったが、
 
地獄に堕ちる亡者はそれこそ数限りなくいるわけだから、
 
いくらカンダタが交通整理しても、到底、彼の廻りに亡者がいなくなるわけはない。
 
 
唯、不思議なことに、こうして亡者を一人ずつ極楽の蓮池に送りこみながら、
 
蜘蛛の糸が、亡者たちの重みで切れないように守り続けているうちに、
 
カンダタ自身いつの間にか、この営みに大きな喜びを感じるようになってしまった。
 
 
やがて彼は、自分がこの糸に縋って登っていくのだという事を忘れ果て、
 
唯、糸が切れぬよう、亡者をひとり、ひとり極楽へ送りこみながら、
 
永遠に、永遠に時が流れていく……。
 
(作者不詳)